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1.9気圧酸素カプセルの可能性-脊柱管内加圧療法における応用

  • 執筆者の写真: WNI事務局
    WNI事務局
  • 2 日前
  • 読了時間: 5分
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厚地 正道

医療法人慈風会厚地脳神経外科病院・あつち葛飾クリニック理事長・東京慈恵会医科大学葛飾医療センター脳神経外科

はじめに


厚地脳神経外科病院は維新の風が吹く鹿児島市に所在し、脳神経疾患全般を診療対象としています。


特に、脳卒中、認知症、および髄液動態異常(特発性正常圧水頭症、脳脊髄液漏出症、脳脊髄液減少症、低髄液圧症候群など)に注力し、地域医療の一翼を担っています。


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また、硬膜外気体注入療法を中心にEGI®を立ち上げて「脊柱管内加圧療法」の治療戦略を構築しています。


脊柱管内加圧療法の概念


特発性正常圧水頭症(iNPH)は60歳以上で好発し、歩行障害、認知症、尿失禁のいずれかまたは複数の症状を呈し、日常生活に支障が出た段階で手術が検討されます。


水頭症手術後に髄液排出が過剰となると、交感神経過緊張と考えられる可逆性の起立性頭痛などの不定愁訴を訴える例もあり、シャントバルブ圧を上げることで症状の改善が見られます。


同様に、脳脊髄液漏出症・減少症・低髄液圧症候群でも、交感神経の過緊張状態に起因すると考えられる症状が観察され、硬膜外腔へ生理食塩水注入(生食パッチ)や血液注入(ブラッドパッチ)、気体注入(酸素もしくはヘリウム、空気)によって脊柱管内を加圧することで症状改善が期待できます。


鹿児島・天文館にある厚地脳神経外科病院
鹿児島・天文館にある厚地脳神経外科病院

これらの臨床経験を基に、自律神経失調症の多彩な症状を改善・軽減する治療戦略として提案しているのが「脊柱管内加圧療法」です。


脊柱管内加圧療法の構成要素


本療法には以下の方法が含まれます。


1. 点滴治療:体内水分量を増やして脳脊髄液量の増加を促進する、血液量を増やして硬膜外腔の静脈圧を上げ、脊柱管内圧を上昇させる。

2. 酸素カプセル・高気圧酸素治療:全身を加圧し、非侵襲的に脊柱管内圧を上昇させる。

3. 各種硬膜外注入療法:生食パッチ、ブラッドパッチ、硬膜外気体注入療法によって直接的に脊柱管内圧を加圧する。


とくに2の酸素カプセルは、非侵襲的かつ簡便であり、脊柱管内圧を上昇させ、自律神経の調整を促進する効果が期待されます。


酸素カプセルの選定と導入事例


当院では、ワールドネットインターナショナル株式会社製の「1.9気圧対応」「車椅子対応」ボックスタイプ酸素カプセルを採用しています。心神耗弱状態の患者さんに対して、車椅子のまま使用可能な構造は大きな利点です。


また、1.1〜1.9気圧まで圧力調整が可能である点は、自律神経の感受性が高い患者さんにとって、状態に応じたきめ細かな対応を可能とし、好評を得ています。


診療の出発点としての「訴えの拾い上げ」


自律神経失調症や自律神経機能不全に伴う身体表現性障害は、実に多彩な症状を呈します。患者さんの愁訴を丁寧に拾い、背景因子や症状発現の契機を探ることが診療の第一歩です。


当院では、40項目からなる「自律神経失調症チェックリスト」によりスクリーニングを行い、9項目以上の該当がある場合は全身性の交感神経過緊張状態を疑い、画像検査(頭部MRI、脊椎MRI)を実施します。画像所見には以下が含まれます


●頭部MRI:脳室縮小、下垂体腫大、硬膜肥厚、静脈系拡張、慢性硬膜下水腫・血腫など。

●脊椎MRI:髄液漏出の有無、胸髄の腹側移動、脊柱管内静脈系の拡張など。


さらに、起立不耐の評価には、起立試験や体成分分析を併用し、循環動態の不安定さや筋肉量・水分量の観察を行い、サルコペニア・フレイルの進行度も評価します。


治療の実際と予後改善の鍵


治療は以下のように構成されます。


●脳脊髄液漏出症:ブラッドパッチによる標的治療

●脳脊髄液減少症・低髄液圧症候群:点滴治療、酸素カプセル、硬膜外(生食 or 気体 or 血液)注入療法の組み合わせ治療の持続的な効果を確保するには、症状を引き起こした契機の特定と、睡眠障害や脱水、サルコペニア・フレイルといった二次的因子への対策が重要です。


自律神経失調症の症状チェックリスト
自律神経失調症の症状チェックリスト

適応疾患と治療補助戦略


「脊柱管内加圧療法」は、あらゆる誘因による自律神経失調症に対する治療法であり、とくに複雑化・重症化しやすい精神疾患、内分泌疾患、免疫疾患においても有用です。


自律神経の調整には、良質な睡眠と適切な水分摂取が基本ですが、状態が悪化すると生活リズムが崩れ、悪循環に陥ります。このような場合に、短期間で症状改善を図る補助手段として本療法が有効です。必要に応じて鍼灸・マッサージなどの併用も推奨されます。


硬膜外(生食・気体・血液)注入療法の位置づけ


日常生活に支障をきたす「起立不耐」に対しては、硬膜外(生食・気体・血液)注入療法を主に実施しています。


注入するマテリアルによる加圧期間の目安は以下の通りです


●生理食塩水(生食パッチ):約1日

●酸素:約3日

●ヘリウム:約7日

●血液(ブラッドパッチ):2週間以上


脊柱管内の加圧が自律神経系に影響を与える理由は未解明ながら、交感神経幹への髄液圧干渉を軽減する仮説を唱えています。


おわりに


酸素カプセルは、高気圧酸素治療とは異なり専門スタッフを必要とせず、病院・クリニック・整骨院・鍼灸院・フィットネスクラブなど多様な施設での活用が可能な「社会インフラ」としてのポテンシャルを秘めています。がんに関しては治療の効果を高めたり、副作用を軽減したりすることが期待されています。このように患者さん自身の自立した健康管理を支援するツールとして、1.1~1.9気圧まで細やかに気圧設定が調整できる1.9気圧対応酸素カプセルの今後の発展・普及が望まれます。


引用元:総合医療でがんに克つ 2025 10 vol.208


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