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1.9気圧酸素カプセルの可能性-酸素カプセルの可能性~高気圧酸素治療との比較

  • 執筆者の写真: WNI事務局
    WNI事務局
  • 2 日前
  • 読了時間: 5分

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陣上 直人

京都大学医学部附属病院 高気圧酸素治療センター 副センター長

はじめに


酸素は呼吸によって体内に取り込まれ、赤血球に含まれるヘモグロビンと結合し、全身の各臓器や組織に分配される重要な分子です。心肺機能の低下や各組織での酸素需要が増加すると、酸素の需要と供給のバランスが崩れることがあります。


このような場合、吸入する酸素の濃度を高めることで、低酸素状態に医学的に介入することが可能です。一方、気圧は天候や標高によって変化し、それに伴い大気中の酸素分圧も変動します。酸素カプセルや高気圧酸素治療は、人工的に高気圧環境をつくりだして介入する手段として注目されています。


酸素カプセル


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酸素カプセルは、健康増進を目的として接骨院や一部の医療機関で利用されています。1.3~1.9気圧の範囲で加圧された環境を提供する装置で、かつてはソフトチャンバーが主流でしたが、現在は安全性の観点から鉄製チャンバーが主流となっています(写真1)。


酸素カプセルは、酸素濃度が21%の空気を加圧して使用するため、装置内の酸素濃度自体は上昇しません。このため、高濃度酸素を用いる高気圧酸素治療装置と比較して可燃性のリスクが低く、安全性は比較的高いと考えられます。一般的に「酸素カプセル」と呼ばれていますが、誤解を招きうるため「加圧カプセル」と呼ぶほうが適切かもしれません。


高気圧酸素治療


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高気圧酸素治療は、医療用の装置を用いて、2.0〜2.8気圧下で100%酸素を通常60分以上吸入する治療法です。1人用の1種装置が広く普及していますが、複数人が入室可能な大型の2種装置も存在します(写真2、3)。この治療は、医療保険が適用される疾患が限られており、治療回数も7〜30回に制限されることがあります。


ただし、京大病院ではトップアスリートの外傷など、保険適用外の疾患に対しても自費診療として実施しています。高濃度の酸素の吸入による酸素中毒のリスクが指摘されることもありますが、規定の範囲内での治療であれば、酸素中毒のリスクは非常に低いとされています。


気圧と酸素濃度の影響


気圧が上昇すると、ヘンリーの法則により血中に溶け込む酸素分子の量が増加します。酸素カプセルで1.3〜1.9気圧になると、約1.3〜1.9倍の酸素が血中に溶解します。


一方、高気圧酸素治療装置において、2.0気圧下で100%酸素を吸入した場合、約10

倍の酸素が溶解します。高気圧酸素治療は、この溶解型酸素の増加を利用して各臓器や末梢組織への酸素供給を高めることから、さまざまな疾患の治療に応用されています。


酸素カプセルは、溶解型酸素の増加率が高気圧酸素治療に劣りますが、気圧による体内空気の圧縮効果や微小な溶解型酸素の上昇によって、何らかの生理的効果が得られる可能性があります。たとえば腸管内に空気が溜まる腸閉塞では、高気圧酸素治療が行われることがあります。これは気圧により腸管内の空気を圧縮し、腸の蠕動運動を促すことで症状を改善する効果があるとされています。おなかが張るような軽度の腸管ガス貯留でも、酸素カプセルは有効な可能性があります。


純粋な気圧変化が人体に与える影響については、今後さらなる研究が必要です。


酸素カプセルの利点と注意点


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最近では酸素カプセルの装置が大型化し、内部で快適に過ごすことが可能になりました。十分な広さがある場合はストレッチを行うこともできます。筋肉などの組織に圧がかかった状態でストレッチやマッサージを行うことにより、自然環境では得られない生理的効果が期待されます。また、酸素カプセルでは電化製品などの持ち込みも可能である点が、高気圧酸素治療と比較して大きな違いです。


1人用の高気圧酸素治療装置ではストレッチはできず、また電化製品の持ち込みも制限されているため、酸素カプセルならではの体験が可能となっているのは興味深い点です。


また、高気圧酸素治療では、酸素中毒を防ぐために通常の入室時間は80~90分以内に制限されますが、酸素カプセルは酸素吸入を伴わないため、入室時間に制限がありません。そのため長時間の滞在が可能であり、夜間に酸素カプセル内で睡眠をとるような使い方もされています。


一方、酸素カプセル使用時には注意点もあります。加圧環境下で空気を吸入すると、窒素も取り込まれ体内に蓄積してしまう可能性があります。これにより、体質や持病によっては重篤な減圧症を引き起こすリスクがあるため、注意が必要です。特に脂肪組織には窒素が溶解しやすく蓄積しやすいため、肥満の方は注意が必要です。酸素カプセルでの減圧時や退室後に、体調不良を感じた場合には、設定気圧を下げて利用することが推奨されます。


まとめ


酸素カプセルは高気圧酸素治療と同様に、未知の可能性を秘めた領域です。高気圧酸素治療は特定の疾患に対する医療行為である一方、酸素カプセルは主に健康増進を目的としています。個人的な感想が、あたかも一般的な効果として宣伝されている例も見受けられることもありますが、科学的根拠に基づいた効果の検証が進むことが望まれます。


酸素カプセルは導入コストが低く、1回あたりの費用も高気圧酸素治療の15〜20%程度に抑えられます。近年では病院やクリニックでも導入する施設があり、今後の新たな知見の蓄積が期待されています。ただし、高気圧酸素治療では保守点検の義務付けや安全管理が徹底されているのに対し、酸素カプセルにおいては安全基準が不明瞭な点が多いという懸念もあります。学会や勉強会などを通して両者が歩み寄り、事故を起こさずに安全に発展していくことが望まれます。


引用元:総合医療でがんに克つ 2025 10 vol.208


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